76行目: |
76行目: |
| :「雷光」を意味する「本当の名前」を与えられたこの怪物(えいゆう)が、その名で呼ばれることはほとんどなかった。 | | :「雷光」を意味する「本当の名前」を与えられたこの怪物(えいゆう)が、その名で呼ばれることはほとんどなかった。 |
| :ミノス王の牛を意味する「異名」が世界的に知られていたからだ。その名こそが[[ミノタウロス]]。 | | :ミノス王の牛を意味する「異名」が世界的に知られていたからだ。その名こそが[[ミノタウロス]]。 |
− |
| |
| :今回は捨て名であるアステリオスとして召喚されている。 | | :今回は捨て名であるアステリオスとして召喚されている。 |
| | | |
− | :クレタ島を支配するミノスは海神ポセイドンに彼から与えられた牡牛を捧げる約束を取り交わしていたが、その神の牡牛が惜しくなり、本来捧げるべきものとは別の牛を捧げてしまう。<br>約束を反故にされたポセイドンはミノス王の妻であるパシパエに牡牛に欲情するように呪いをかけ、アステリオスはそうして生まれたのだ。<br>その巨躯と怪力、頭蓋から伸びた角と、何より不義の子である事実に困り果てたミノスは、それを隠すために侍女を皆殺しにし、残った『彼』を封じ込める為の場として高名な工匠ダイダロスに建造を命じた。<br>そう「決して出られぬ迷宮」――ラビリンスを。 | + | :クレタ島を支配するミノスは海神ポセイドンに彼から与えられた牡牛を捧げる約束を取り交わしていたが、その神の牡牛が惜しくなり、本来捧げるべきものとは別の牛を捧げてしまう。 |
| + | :約束を反故にされたポセイドンはミノス王の妻であるパシパエに牡牛に欲情するように呪いをかけ、アステリオスはそうして生まれたのだ。 |
| + | :その巨躯と怪力、頭蓋から伸びた角と、何より不義の子である事実に困り果てたミノスは、それを隠すために侍女を皆殺しにし、残った『彼』を封じ込める為の場として高名な工匠ダイダロスに建造を命じた。 |
| + | :そう「決して出られぬ迷宮」――ラビリンスを。 |
| | | |
− | :迷宮に閉じ込められたアステリオスは、ミノス王に命じられるまま、何も知らない子供を殺していったが、生贄にされた彼らは既に人としての権利を剥奪された。<br>まるで生きること自体が罪で、進んでその身を捧げる事が自然の摂理であるように。 | + | :迷宮に閉じ込められたアステリオスは、ミノス王に命じられるまま、何も知らない子供を殺していったが、生贄にされた彼らは既に人としての権利を剥奪された。 |
| + | :まるで生きること自体が罪で、進んでその身を捧げる事が自然の摂理であるように。 |
| | | |
− | :その噂を聞きつけ、ラビリンスに忍び込んだテセウスに倒されてしまった。<br><ruby>生まれついての怪物<rb></rb><rt>アステリオス</rt></ruby>は<ruby>生まれついての英雄<rb></rb><rt>テセウス</rt></ruby>に倒される事が<ruby>宿命<rb></rb><rt>さだめ</rt></ruby>られたからだ。 | + | :その噂を聞きつけ、ラビリンスに忍び込んだテセウスに倒されてしまった。 |
| + | :<ruby>生まれついての怪物<rb></rb><rt>アステリオス</rt></ruby>は<ruby>生まれついての英雄<rb></rb><rt>テセウス</rt></ruby>に倒される事が<ruby>宿命<rb></rb><rt>さだめ</rt></ruby>られたからだ。 |
| | | |
− | :たとえ彼の本質が邪悪ではなかったとしてもその所業が悪である以上、罰を受けることは必然だったからだ。<br>たとえ、闇しかない陰鬱な迷宮ではなく、光のもとにある涼やかな自然の風を、豊かな森を求めていたとしても。<br>そして、テセウスが彼を助けたかったという願いを持っていても。 | + | :たとえ彼の本質が邪悪ではなかったとしてもその所業が悪である以上、罰を受けることは必然だったからだ。 |
| + | :たとえ、闇しかない陰鬱な迷宮ではなく、光のもとにある涼やかな自然の風を、豊かな森を求めていたとしても。 |
| + | :そして、テセウスが彼を助けたかったという願いを持っていても。 |
| | | |
| ===関連=== | | ===関連=== |