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: 宝具解放(第三再臨前)。裁定と粛清の時は訪れた。寂滅の剣は廻り、善は生かし悪を滅するための絶対たる滅びがもたらされる。
 
: 宝具解放(第三再臨前)。裁定と粛清の時は訪れた。寂滅の剣は廻り、善は生かし悪を滅するための絶対たる滅びがもたらされる。
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; 「星の灯火は消え、諸人は運命を裁かれる。我は神の力を継ぎ、その役割を果たす。世界は廻り、悪は滅する!『<ruby><rb>帰滅を裁定せし廻剣</rb><rt>マハー・プララヤ</rt></ruby>』! ───還るべき場所に、還るがいい……。」<br/> 「滅亡と創生は是、表裏一体。万物は流転し、死は生へと裏返る。されど人の世に邪悪なるもの、不要なり。『<ruby><rb>帰滅を裁定せし廻剣</rb><rt>マハー・プララヤ</rt></ruby>』! ───人よ、生きるべし……。」
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; 「星の灯火は消え、諸人は運命を裁かれる。我は神の力を継ぎ、その役割を果たす。世界は廻り、悪は滅する!『<ruby><rb>帰滅を裁定せし廻剣</rb><rt>マハー・プララヤ</rt></ruby>』! ───還るべき場所に、還るがいい……。」<br/> 「滅亡と創世は是、表裏一体。万物は流転し、死は生へと裏返る。されど人の世に邪悪なるもの、不要なり。『<ruby><rb>帰滅を裁定せし廻剣</rb><rt>マハー・プララヤ</rt></ruby>』! ───人よ、生きるべし……。」
 
: 宝具解放(第三再臨後)。マスターに敵対する「邪悪なもの」に対して一切の容赦はない。必滅の剣は廻り、人が生きる世界を救うための破壊が此処に振るわれる。
 
: 宝具解放(第三再臨後)。マスターに敵対する「邪悪なもの」に対して一切の容赦はない。必滅の剣は廻り、人が生きる世界を救うための破壊が此処に振るわれる。
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: 言葉を絶するほどの悲惨な光景を見続け、感情すらも失われていき、やがて最後まで彼に残ったものは───「何故」という疑問だけだった。
 
: 言葉を絶するほどの悲惨な光景を見続け、感情すらも失われていき、やがて最後まで彼に残ったものは───「何故」という疑問だけだった。
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; 愚かな戦争を、見た。<br/> 疑問だけが、残った。<br/> ……ああ。<ruby><rb>なぜ</rb><rt>・・</rt></ruby>、<ruby><rb>できない</rb><rt>・・・・</rt></ruby>? 本当は、誰も彼もが、わかっているだろうに。<br/> 理由は明白だった。優れていない、正しくない、劣り間違えているものの全て。<br/> それを一語で表すならば───<br/> 元凶は、悪だ。 悪を切り捨てぬからこうなった。<br/> 不出来は悪だ。不要は悪だ。不実は悪だ。不軌は悪だ。不寛容は悪だ。不信は悪だ。不義は悪だ。不忠は悪だ。<br/> 虚勢は悪だ。欺瞞は悪だ。忘却は悪だ。無知は悪だ。頽廃は悪だ。嫉妬は悪だ。愚昧は悪だ。貪欲は悪だ。<br/> 誰もが、それを理解していて。<br/> <ruby><rb>なぜ</rb><rt>・・</rt></ruby>。<ruby><rb>それを切り捨てることが</rb><rt>・・・・・・・・・・・</rt></ruby>、<ruby><rb>できない</rb><rt>・・・・</rt></ruby>?<br> 願った。他の世界では違うのかもしれないが、この世界での私は、願った。<br/> ───<ruby><rb>そうあれ</rb><rt>・・・・</rt></ruby>と。<br/> しかし、気づいたのだ。あの戦争の後に。<br/> 同胞たちの血に濡れた大地が。卑劣が卑劣を呼ぶ愚かな報復の連鎖が。<br/> 好敵手を撃ち殺した手に刻まれた感触が───何よりも雄弁に、語っていた。<br/> 世界は、自然に悪が正されるようにはできていないのだ、と。<br/> ……だから、誰かがやらなくてはならない<br/> ……誰もやろうとしないのであれば<br/> ……それは、自分がやるしかないのでは<br/> ……なぜなら<br/> ……あの地で最も人に血を流させた者は<br/> ……<ruby><rb>邪悪</rb><rt>愚か</rt></ruby>な戦場を最も象徴する者は<br> ……即ち、最も<ruby><rb>邪悪</rb><rt>愚か</rt></ruby>であった者は───<br/> 望み求めたのは、正しき世界。<br/> 当たり前の、何の変哲もない。口に出す事も憚られるような。<br/> 赤子と神のみが信じる事を許されるような。<br/> 人が殺し合う事のない、正しき世界。<br/> 邪悪を糾し尽くし、そこへ辿り着くために必要なもの。<br/> そのための力は。幸いにして、すぐ傍にあった───
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; 愚かな戦争を、見た。<br/> 疑問だけが、残った。<br/> ……ああ。<ruby><rb>なぜ</rb><rt>・・</rt></ruby>、<ruby><rb>できない</rb><rt>・・・・</rt></ruby>? 本当は、誰も彼もが、わかっているだろうに。<br/> 理由は明白だった。優れていない、正しくない、劣り間違えているものの全て。<br/> それを一語で表すならば───<br/> 元凶は、悪だ。 悪を切り捨てぬからこうなった。<br/> 不出来は悪だ。不要は悪だ。不実は悪だ。不軌は悪だ。不寛容は悪だ。不信は悪だ。不義は悪だ。不忠は悪だ。<br/> 虚勢は悪だ。欺瞞は悪だ。忘却は悪だ。無知は悪だ。頽廃は悪だ。嫉妬は悪だ。愚昧は悪だ。貪欲は悪だ。<br/> 誰もが、それを理解していて。<br/> <ruby><rb>なぜ</rb><rt>・・</rt></ruby>。<ruby><rb>それを切り捨てることが</rb><rt>・・・・・・・・・・・</rt></ruby>、<ruby><rb>できない</rb><rt>・・・・</rt></ruby>?<br> 願った。他の世界では違うのかもしれないが、この世界での私は、願った。<br/> ───<ruby><rb>そうあれ</rb><rt>・・・・</rt></ruby>と。<br/> しかし、気づいたのだ。あの戦争の後に。<br/> 同胞たちの血に濡れた大地が。卑劣が卑劣を呼ぶ愚かな報復の連鎖が。<br/> 好敵手を撃ち殺した手に刻まれた感触が───何よりも雄弁に、語っていた。<br/> 世界は、自然に悪が正されるようにはできていないのだ、と。<br/> ……だから、誰かがやらなくてはならない<br/> ……誰もやろうとしないのであれば<br/> ……それは、自分がやるしかないのでは<br/> ……なぜなら<br/> ……あの地で最も人に血を流させた者は<br/> ……<ruby><rb>邪悪</rb><rt>愚か</rt></ruby>な戦場を最も象徴する者は<br> ……即ち、最も<ruby><rb>邪悪</rb><rt>愚か</rt></ruby>であった者は───<br/> 望み求めたのは、正しき世界。<br/> 当たり前の。何の変哲もない。口に出す事も憚られるような。<br/> 赤子と神のみが信じる事を許されるような。<br/> 人が殺し合う事のない、正しき世界。<br/> 邪悪を糾し尽くし、そこへ辿り着くために必要なもの。<br/> そのための力は。幸いにして、すぐ傍にあった───
: 愚かな戦争の末路。本当は誰もが気づいていて、誰もやろうとしなかった。あらゆる悪と弱さを切り捨てなかったからこそ、あの戦争は悲惨な結末を迎えたというのに。
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: 愚かな戦争の末路。本当は誰もが過ちに気がついていたにも関わらず、誰もやろうとはしなかった。あらゆる悪と弱さを切り捨てなかったからこそ、あの戦争は悲惨な結末を迎えたというのに。
 
: だからこそ彼は願い求めたのだ。悪が糾され、純粋に正しく在る世界を。争いのない、穏やかな正しき世界を。誰が見ても正しいと思える、理想の世界を。
 
: だからこそ彼は願い求めたのだ。悪が糾され、純粋に正しく在る世界を。争いのない、穏やかな正しき世界を。誰が見ても正しいと思える、理想の世界を。
 
: なぜなら、あの戦争で最も邪悪だったと彼が唾棄した存在は。彼が「誰よりも戦果を上げて栄光を勝ち取り、誰よりも手を汚し、誰よりも愚かであった」と憎悪した存在は、すなわち。宿敵に卑怯な矢を向けてしまった、自分自身に他ならなかったのだから。
 
: なぜなら、あの戦争で最も邪悪だったと彼が唾棄した存在は。彼が「誰よりも戦果を上げて栄光を勝ち取り、誰よりも手を汚し、誰よりも愚かであった」と憎悪した存在は、すなわち。宿敵に卑怯な矢を向けてしまった、自分自身に他ならなかったのだから。
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: そう。最初から、彼は完全な存在ではなかったのだ。それにようやく気がついた時には、もはや全てが終わろうとしていた。
 
: そう。最初から、彼は完全な存在ではなかったのだ。それにようやく気がついた時には、もはや全てが終わろうとしていた。
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; 「……敗因を理解した。私の滅業の刃は私の中には届かない。<br/> どれだけユガが転輪しようとも、私の中からおまえに抱く執心という邪悪は消え去らない。<br/> その執心こそが、必要以上に私を真に完璧な神へと至らせようとした。<br/> 民を正しき世界へ導く、邪悪より生まれし最後の神の中に───<br/> さらに、消し去れぬ邪悪が、在った。<br/> それらはおそらく、私にとっては。世界よりも先に壊すべきモノだったのだが……<br/> 壊せなかったが故に、こうなった。愚かに、過ぎる……。」<br/> 「は……そうか。矛盾だ。<br/> 私は自らの不完全性に気付かず、完全と信じた。そしてその完全を信じた事すらも不完全の種子だった。<br/> ああ、そもそもが矛盾していた私は、最初から。<br/> 貴様が望む男にすら、なれてはいなかったのか───」
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; 「……敗因を理解した。私の滅業の刃は私の中には届かない。<br/> どれだけユガが輪転しようとも、私の中からおまえに抱く執心という邪悪は消え去らない。<br/> その執心こそが、必要以上に私を真に完璧な神へと至らせようとした。<br/> 民を正しき世界へ導く、邪悪より生まれし最後の神の中に───<br/> さらに、消し去れぬ邪悪が、在った。<br/> それらはおそらく、私にとっては。世界よりも先に壊すべきモノだったのだが……<br/> 壊せなかったが故に、こうなった。愚かに、過ぎる……。」<br/> 「は……そうか。矛盾だ。<br/> 私は自らの不完全性に気付かず、完全と信じた。そしてその完全を信じた事すらも不完全の種子だった。<br/> ああ、そもそもが矛盾していた私は、最初から。<br/> 貴様が望む男にすら、なれてはいなかったのか───」
 
: 消滅の間際、宿敵たる英雄に諭されて己が抱えていた矛盾を理解する。
 
: 消滅の間際、宿敵たる英雄に諭されて己が抱えていた矛盾を理解する。
: 最も消すべきでありながら決して消すことのできなかった「執心」は彼を必要以上の高みへと至らせ、そしてその「人間味」を以て孤独なる神の座から失墜させた。
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: 最も消すべきでありながら、決して消すことのできなかった「執心」は彼を必要以上の高みへと至らせ、そしてその「人間味」を以て孤独なる神の座から失墜させた。
 
: かつて世界に絶望して神となり、しかしその最後で人へと立ち返った英雄「アルジュナ」は、過ちと矛盾、後悔、どうしようもない「何か」を抱えつつも、どこか憑き物が落ちたかのように微笑みながら消えていった。
 
: かつて世界に絶望して神となり、しかしその最後で人へと立ち返った英雄「アルジュナ」は、過ちと矛盾、後悔、どうしようもない「何か」を抱えつつも、どこか憑き物が落ちたかのように微笑みながら消えていった。
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==== マテリアル ====
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; 絶対的な神は万能であり、全てに秀でていてあらゆる権能を保有する。<br/> 今の私はサーヴァントとして使役され、戦うための生命体となったが、神であることに変わりはなかった。<br/> なかった、はずだった。<br/> ……けれど、ああ。<br/> あなたは私に自分らしくあって欲しいと願った。<br/> だから、私はその言葉を決して忘れぬようにこの拙い出来の人形を作ったのです。<br/> 木の枝を折り、ナイフで削って、少しずつ形を整えて───<br/> そして出来上がったこの人形を、私はどうにも愛しく思うのです。<br/> 不完全なもの、不完全であるが、私が作ったもの。<br/> それは小さな、けれど決して全能の神には持てない誇りなのです。
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: 絆礼装「刻まれていたもの」より。
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: マスターからの『自分らしくあってほしい』という願いを受け止めたアルジュナは、自らの手でひとつの小さな人形を作り上げた。それは決して完璧な仕上がりとは呼べないものだったが、人間性を取り戻した彼は生前のように不完全さを不要と断じて切り捨てるのではなく寧ろ愛おしいとまで感じており、彼が本来有している穏やかな性格をも窺わせている。
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: この素朴な木彫りの人形はアルジュナにとって紛れもない人としての誇りの象徴であり、魂の灯火が今もなお静かに輝き続けていることの証左なのである。
    
== メモ ==
 
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