Fate/strange fake
著者、成田良悟。
架空のゲームのキャラメイキング前の序章という形で、第五次聖杯戦争から数年後、別の街で起こる擬似聖杯戦争を描く『Fate/stay night』スピンアウト小説。
元々は成田氏が自身のウェブサイトに掲載したエイプリルフール企画『Fake/states night』だった。
だが、後に『TYPE-MOONエース』Vol.2に別冊付録として加筆収録され、正式な外伝作品となった。
登場人物
- 「プレイヤー」
- 架空ゲームの主人公。欠けている「剣士のサーヴァント」を補完する存在。
年齢は10代後半から20代半ば。性別は男かもしれないし、女かもしれない。魔術師でも超能力者でもない。
かつて日本の冬木市に住んでいたが、何かから逃げた末にアメリカに辿りつく。ラスベガスにて「白い髪と白い肌の美女」と出会い、5つの令呪を押し付けられる。令呪を得た3日後、スノーフィールドに旅行者として現れる。
体中に分散して5画の令呪を持ち、令呪を消費することで一時的に英霊を呼び出すことができる。召喚するサーヴァントはペルセウス、ヒュドラ、イアソン、スカサハ、スキュラなど十数種類の中から5体を選択できる。
ただし召喚時間は1つの令呪につき30分程度で、宝具などで魔力を過剰に消費すればその時間はさらに短くなり、逆に魔力を補充すれば延長される。またこの範囲内でさえあれば、1つの令呪で5体のサーヴァントを6分間ずつ召喚することや、まとめて同時に召喚することも可能である。
「エレベーターのある建物に入れない」「時折、血塗れの女の子の幻影を見る」という制約を持ち、『Fate/hollow ataraxia』冒頭の怪談話に登場したA氏と同一人物であるような描写がされている。
- ティーネ・チェルク
- 現在「スノーフィールド」と呼ばれている土地と、千年以上の昔から共生してきた一族の少女。彼らが代々守ってきた土地の中でのみ、強力な魔術を極少の工程で発動できる。
一族を束ねる総代として、外来の魔術師たちに奪われた土地を取り戻すため、アーチャーのサーヴァントを召喚した魔術師を殺害してマスターに成り代わり、黄金の英雄王の助力を仰ぐ。
12歳ほどの幼い外見に反して、感情を捨てたかのような沈着さと、目的のためには殺人も厭わない冷徹さを持つが、敬意を懐く英雄王の言動には時に心を動かされる様子も見せる。
- アーチャー
- 冬木の聖杯戦争にも現れたかの英雄王。召喚された直後はこの戦争を「紛い物」と断じて戯れ程度にあしらうつもりでいたが、唯一無二の友が参戦したことを感じとったため、珍しく本気モードとなる。
幼くして重い使命を負っているティーネに対しては、傲岸ながらもどこか鷹揚に接する。
- フラット・エスカルドス
- バーサーカーのマスター。ロード・エルメロイII世の最古参にあたる弟子。地中海に基盤を持つ魔術師の家に生まれ、類希なる魔術の才能を持つが、その性格は壊滅的なまでに魔術師向きではない。
勘違いで師から貰い受けた模造品の聖遺物を用い、白昼堂々、街の広場の中心にて、祭壇も呪文も用いずにサーヴァントを召喚してのける。
- バーサーカー
- 切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の謎から生まれた伝説が英霊と化した存在。バーサーカーのクラスを得ながらも、元から狂気の象徴であるため「狂化」の補正と打ち消し合い、一周回って正気を保った紳士的な性格となっている。
切り裂きジャックとして疑われた者全てであると同時にその誰でもないため、定まった姿を持たず「誰にでもなれる」能力を持つ。聖杯への望みは「実在した切り裂きジャックの正体を知る」こと。
- ジェスター・カルトゥーレ
- アサシンのマスター。『六連男装』の異名を持ち、概念核を入れ替えることで六種類の魂を自在に使い分けることが出来る死徒。
世の中に退屈しており、聖杯の力で蜘蛛でも起こして世界を滅ぼそうかと考えていたが、召喚直後に自分を殺害したアサシンの過去に触れ、彼女の美しさと純粋な信仰心、苛烈なまでの修身と報われぬ生涯を知って執着し、どこまでも追い求める。
- アサシン
- 黒いローブを纏った「美しき暗殺者」。その正体は19人目の「山の翁」ハサン・サッバーハになれなかった少女。
女性ながらその狂的な信仰心によって、過去のハサンたちが修めた18の奇跡「ザバーニーヤ」を全て模倣し会得したほどの才と熱意を見せたが、新たな業を造る才はに乏しく、またその異常なまでの修身が同じ神を信じる教団の者たちにまで恐れられたことから、その代のハサンには選ばれなかった。
狂おしいまでに神を信じ、神に背く者、敵対する者には一切の容赦をしない。聖杯よりの知識を得てすぐに異端たる魔術師のジェスターを殺害、歴代の山の翁達を惑わせた「聖杯戦争そのもの」を破壊するために行動する。
- 警察署長
- キャスターのマスターにして、スノーフィールド市の警察署長。ファルデウス同様、この「偽りの聖杯戦争」を仕組んだ側に立っている。警察官としての部下であり、魔術師としての弟子である「二十八人の怪物(クラン・カラティン)」を率いる。
- キャスター
- 劇作家アレクサンドル・デュマ(大デュマ)。スノーフィールド市の警察署長によって召喚され、“伝説を上回る伝説を作り出す”『昇華』の能力を買われて、英雄王に対抗するための贋作宝具を造らされている。
聖杯にかける願いは特に持っておらず、聖杯戦争の参加者たちが演じるドラマ、その過程と結末こそを求めている。
- 二十八人の怪物(クラン・カラティン)
- キャスター製の宝具を与えられた28人の魔術師兼警察官の集団のコードネーム。クー・フーリンと戦ったケルト神話の28人合体戦士『クラン・カラティン』から命名。
剣、弓、盾、槍、鎖、鎌、棍、金色の火縄銃のようなもの、などなど与えられた宝具は様々。
- 繰丘椿
- スノーフィールド中央病院で眠り続ける10歳の少女。魔術師である両親に植え付けられた『細菌』型の蟲に脳の機能を阻害され、1年以上もの昏睡状態にある。
無意識のうちに「夢の中に現実を投影する」魔術を行使しており、精巧に再現された無人のスノーフィールドでライダーと出会った。
- ライダー
- 椿の夢の中に召喚されたサーヴァント。
その正体は「病」という災厄そのもの。風に、水に、鳥に、人に乗り、世界に拡がって多くの命を刈り取ってきた存在であることと、『ヨハネの黙示録』において「ペイルライダー」という象徴的な名と擬似的な人格を与えられたことにより、正しくは英霊などではないにも関わらず、ライダーのクラスに据えられる。
人間を病に感染させ、魔力を奪った上で椿の望み通りに動く操り人形とすることが出来る。
- 銀狼(名前無し)
- エジプトの『神』を喚ぶための召喚触媒として製造された合成獣。そのため厳密には狼ではない。
寿命と引き換えに、並の魔術師を遥かに凌ぐ質・量の魔術回路を組み込まれている。創造主である魔術師に追い詰められ、処分されようとした瞬間、『生きる』という本能に従った叫び声のみで魔術を行使、早急にサーヴァントの顕現を望む聖杯に応える形で簡易的な儀式を完遂し、ランサーを召喚した。
- ランサー
- 英雄王の唯一無二の親友、エルキドゥ。
飾り気のない簡素な服装に、男とも女とも取れる柔らかく優美な風貌で、その端整さは人間というより人形に近い。温和な性格だが、狼を虐待した創造主を一睨みで追い払うほどの迫力をも持ち合わせる。
遥かな時を超えた現代で、かつての友と再び見える事に歓喜している。
- ランガル
- 魔術協会から、偽りの聖杯戦争を調査するために派遣された人形使い。自らは現地に赴かず、動作の不自然さを誤魔化すために老人の姿をした人形を操り、諜報を行う。
自らの人形を弟子ファルデウスとともにアメリカのスノーフィールドに送り込むが、正体を現したファルデウスが率いる軍の特殊部隊によって破壊され、この偽りの聖杯戦争を企てた者たちの「宣伝」を協会に伝えることとなった。
古臭い価値観に凝り固まっており、新興国であるアメリカに魔術師の悲願たる聖杯が降霊しようとしている事を好ましく思っていない。
- ファルデウス
- ランガルに弟子入りして魔術協会に潜り込んでいたアメリカ政府のエージェントにして魔術師。
偽りの聖杯戦争を企てた一派の代表として動いており、全ての準備が整ったと見るや師であるランガルを裏切り殺害、その死骸ならぬ人形の残骸への芝居がかった暴露を通じて、これから自分たちの成そうとしている事を宣伝する。
正体を現してからは通常兵器で武装した兵士の部隊を率い、この聖杯戦争の監督役的な立ち回りをしている。
- ロード・エルメロイII世
- 時計塔の講師。フラットの師であり、彼に(そのつもりはなかったが)サーヴァント召喚の触媒を渡す。
- 繰丘夫妻
- 繰丘椿の両親。とある『蟲使い』の魔術を模倣して生み出した微小の蟲を娘に植え付け、痛みを伴う肉体改造によって魔力回路を増幅させる実験を行うが、調整が上手く行かなかったせいで椿を昏睡状態に陥れてしまう。
ファルデウスらの一派と共謀関係にあり、偽りの聖杯戦争においては秦の始皇帝を召喚する算段で、宝具としても有用な聖遺物を触媒に用意していたが、ライダーの力により昏倒させられ「椿が思い描く通りの理想の両親」を演じるだけの生きた死者と化す。
- アーチャーを召喚した魔術師
- 緩やかに衰退しつつある己の血統に焦りを覚えており、この偽りの聖杯戦争によって一発逆転の栄光を掴むため、将来性のない息子や反対した妻などを全て「処分」した上で、先祖が入手した聖遺物「この世全ての財が納められた宝物庫の鍵」を手にスノーフィールドに乗り込んだ。鍵剣の本来の持ち主である英雄王の召喚を成功させるも、直後にティーネの襲撃を受け、令呪の宿った腕を切り落とされて奪われる。怒りに任せて魔術での反撃に出るが、霊地の力を借りた高密度の術により反対に焼き尽くされ、何一つ残すことなくこの世から消滅した。
- 合成獣を製造した魔術師
- 狼型の合成獣を触媒に、聖杯戦争のシステム的に不可能な『神』の召喚を試みようとしていた。単なる触媒のはずの合成獣がマスターとして令呪を得たことに怒り、殺害して令呪を奪おうとするも、合成獣に召喚されたランサーに阻まれ逃走。街にスペアの合成獣を解き放ち、その混乱に乗じて令呪を奪回せんと目論むが、これ以上の不確定要素が増えることを嫌ったファルデウスに喉を掻き切られて死亡。
- 女
- プレイヤーがゲーム開始の3日前にラスベガスで会った白い髪と白い肌の女性。プレイヤーに令呪を押し付けた。
第5次聖杯戦争の結末を改変するために偽りの聖杯を奪おうと画策している様子。
用語
- 偽りの聖杯戦争
- Fate/stay night本編から数年後。アメリカ政府の組織が第3次聖杯戦争に目を付け、そのシステムを模倣することに成功、冬木でも60年程度かかるのと同様に70年以上の時を経て聖杯戦争が可能になった。ただし模倣は不完全で、政府の魔術師もサーヴァントがセイバー抜きの6柱ということは把握しているが、未知数な部分もある。